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本論は、年齢によって、脊柱の屈曲・伸展域がどう推移するかを、幼少期から高年期にわたって映像で記録し、それぞれの年代の特徴を明らかにしようと試みたものである。これまでも、脊柱形状に関する報告は数多くなされてきた。その主たるものは、1)脊柱弯曲パターンの分類化、2)脊柱蛮由度の定量化、3)脊柱形状にかかわる諸要因の解明に関するものである。1)の脊柱弯曲パターンは、主に姿勢分類の指標として用いられてきた。2)の脊柱弯曲度の定量化には、基準線からの変位量や体節の角度など測定法の開発とあわせた報告が多い。また3)の脊柱形状に関わる要因の報告からは、年齢、運動経験、体格、疾病、職業あるいは性格や感情など多様な要因がその形状に影響を与えること1,2,7,15,19)、同時に、ヒトの脊柱形状そのものが可変性にとむことを示唆するものである。
ヒトの脊柱形態の年齢推移は、直立二足歩行というヒトの特異性と関わりがある。生後、直立姿勢の獲得とともに重力負荷の位置と方向がかわり、弯曲は単弓性のC型からダブルS型、さらに加齢にともない再びC型に変わるとされてきたが、このような姿勢変化は、すでにギリシャ神話でも語られてきた。加齢推移としては、これまでも脊柱長径が短縮し躯間長がへること、脊柱弯曲のうち後方凸面をもつ胸部沓曲がより大きくなり、一方、前方凸面の腰部弯曲は小さく扁平化することなどが報告されてきた14)。
脊柱可動域(屈曲・伸展・側屈・回旋の角度)は、17〜20歳をピークに、成長期には上昇、中高年期には下降するとされている9,16)。またSerMee13)は、股関節の可動域は、15歳をピークに、その後徐々に低下し、60〜70歳にかけて急激に低下するとしている。この年齢推移には、脊柱を構成する骨・靱帯など器質的(Static)な要因と、調整力・筋力など機能的(dynamic)な要因が相乗している。たとえば鈴木ら14)は、臥位における脊柱弩曲を立位と比較し、青壮年のほうが姿勢による変化率が大きいことを明らかにし、脊柱のflexibilityの加齢変化には、筋力や柔軟性の低下に加え、脊柱後腎の増強が固定化されるためではないかとのべている。
ヒトの脊柱運動(屈曲・伸展・側屈・回旋の角度)の調査は、対象の生活適応力、作業・運動能力、障害や疾病のレベル、舞踊や体操における表現能力などさまざまな適性の把握を目的としてなされてきた。たとえば、Kraus−WeberTest11)は、普通の生活に必要なミニマムな筋力レベル把握を意図したもので、5種類の上体の屈曲運動と1種類の伸展運動がバッテリーになっている。同様にKendallら5、6)は、筋や神経疾患の診断と処方を目的として筋力テスト法を作成し、体幹部の筋力指標として脊柱の屈曲・伸展運動をあげている。一方、フィットネステスト17)、たとえば<University of Illinois motor fitness test>では、柔軟性の項目として伏臥での上体伸展(trunkextension)、坐位での上体屈曲(trunkflextion)、立位での上体屈曲(floor touch)をあげ、文部省9)による体力・運動能力調査も、「伏臥上体そらし」と「立位体前屈」を柔軟性項目として位置づけている。同じ脊柱運動が、ときには筋力テスト、ときには柔軟性テストに分類されていることは、この運動が、もともと複合的な要因に規定されることをしめすものといえる。
上でものべたように、脊柱可動域(range of motion)の記録には、距離法、角度法あるいは形状パターンの分類など様々な方法が適用されてきた12,17)。この多様さは、一方で、運動テストとして脊柱可動域を特定する困難さをしめすものでもある。本論では、幼少から高年までという対象の形態や機能の変異幅を考慮して、躯幹を幾つかの区間にわけ、同一基準点による屈曲・伸展の形状パターン分類と定量化を試み、年齢・年代の特性を明らかにしようとした。

研究方法

1. 対象

都市とその近郊在住のO歳から75歳までの男女317名(男121、女196)を対象とした。年齢・年代別の人数は表1のとおりである。0〜5歳は

 

 

 

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