ヒトの脊柱運動(屈曲・伸展・側屈・回旋の角度)の調査は、対象の生活適応力、作業・運動能力、障害や疾病のレベル、舞踊や体操における表現能力などさまざまな適性の把握を目的としてなされてきた。たとえば、Kraus−WeberTest11)は、普通の生活に必要なミニマムな筋力レベル把握を意図したもので、5種類の上体の屈曲運動と1種類の伸展運動がバッテリーになっている。同様にKendallら5、6)は、筋や神経疾患の診断と処方を目的として筋力テスト法を作成し、体幹部の筋力指標として脊柱の屈曲・伸展運動をあげている。一方、フィットネステスト17)、たとえば<University of Illinois motor fitness test>では、柔軟性の項目として伏臥での上体伸展(trunkextension)、坐位での上体屈曲(trunkflextion)、立位での上体屈曲(floor touch)をあげ、文部省9)による体力・運動能力調査も、「伏臥上体そらし」と「立位体前屈」を柔軟性項目として位置づけている。同じ脊柱運動が、ときには筋力テスト、ときには柔軟性テストに分類されていることは、この運動が、もともと複合的な要因に規定されることをしめすものといえる。
上でものべたように、脊柱可動域(range of motion)の記録には、距離法、角度法あるいは形状パターンの分類など様々な方法が適用されてきた12,17)。この多様さは、一方で、運動テストとして脊柱可動域を特定する困難さをしめすものでもある。本論では、幼少から高年までという対象の形態や機能の変異幅を考慮して、躯幹を幾つかの区間にわけ、同一基準点による屈曲・伸展の形状パターン分類と定量化を試み、年齢・年代の特性を明らかにしようとした。